ショートショートショート takumi’s blog

【短編小説ショートショート】指が押し出されるほどの名器。

◆先輩、彼女できたんですね、さっき電話してた内容が聞こえてきちゃって、付き合った日なんかイチイチ覚えてねえから、とかなんとか言ってるのが、すんません、聞くつもりなかったんですけど。

 

◇ああ、いいよ謝んなくて、それがさ。面倒臭いんだわ、すげえ面倒臭いんだわ。

 

◆はい、なんすか、口喧嘩ですか。

 

明日が何の日かわかる ?って言ってきてさ。

 

◆あー、はいはい。

 

◇なにお前、はいはいって何の話しかわかんのか ?

 

◆あれっすよね、記念日的なことですよね。

 

◇そうそう、お前さすがだな、同期入社の奴らの中で頭一つ抜き出てるだけあるわ。

 

◆いやそんな、とんでもないっすよ、先輩に目にかけていただいてシゴいてくれるので、先輩から面倒見てもらってるからこその自分なんで。それであれですか、先輩がその記念日忘れてたから彼女さんが怒ったってことですか、でも記念日来るの早くないっすか ? まだ付き合ったばっかりですよね。

 

◇そこよそこ、付き合って明日で一週間記念日なんだとよ、だから彼女が言うにはだな、一週間記念日ってわからないってことは付き合った日も忘れてわかんないってことでしょ、って怒っちゃってさ、お前今まで付き合った奴との付き合った日にちなんて覚えてるか ? 覚えてねえだろ ?

 

◆先輩に同調できなくて申し訳ないんすけど、おれそういうの覚えてるタイプなんすよ。

 

◇おい、嘘だろ、えええ、お前がか、毎日忘れてずプロテイン持参で出社してきて、仕事が終われば週四だっけか? ジム行って筋トレしてるマッチョなお前がか、へえー、これは意外だわ、やっぱ顧客ともそうだけど、人って話してみないとわかんないものだな。

 

◆おれ意外と相手に尽くすタイプなんですよ、それに彼女さんの気持ちの方が先輩の気持ちよりわかるかもしれないすねおれ。

 

◇うわっキモいって一瞬思ったけど、お前の仕事で顧客フォローなんかみてると確かにお前に対して、男が普通そんなとこまで気が回らんだろうに大したもんだなって思うこと、ちょいちょいあるわ。

 

◆キモいって、ひどいな先輩、でも最終、自分のこと褒めてくれたんで結果トントンなんでオッケーです。

 

◇でさ、彼女の話に戻るけど、今日酒飲んでくるってLINEしたら速攻電話きてさ、なんかテンション高めな感じで。

 

◆あー、はい、見えてきました、先輩が電話で軽くキレた理由が。

 

◇まじか、それでな、おれが、はいもしもしって言い終わる前に被せてだぜ、明日なんの日かわかる ?  って。

 

◆はいはい、イメージ通りの展開です。

 

◇わかんないな、わかんないはずないでしょ、ちょっとわかんないよ、本当にわかんないの ? みたいなやり取りを二、三回繰り返したら、急に不機嫌な声になって、私たちの記念日じゃん、って、その記念日ってワード出されたら余計わからなくなっちゃってさ。

 

◆はいはい、わかりますよそうなるの。

 

◇だろ、頭がこんがらがっちゃって。

 

◆それで彼女さんが、先輩が出なかった答えを自分の口から、芸人がコントを披露した後に笑いどころが伝わらなかったから解説するように言う羽目になっちゃったもんだから、先輩が火に油を注ぐ形になっちゃいますよね。

 

◇お前、おれと彼女と三人で電話してたかのように見事に様子を掴むな、すげえわ。

 

◆先輩あれですよ、顧客や取引先と駆け引きするときと同じですよ彼女にも、なんか上からに言ってるみたいで生意気言ってすんませんけど。

 

◇いや、今そんなのはどうでもいい、それよりどういうことよ駆け引きと同じって。

 

◆先輩、仕事の駆け引きのときには球種多いじゃないですか、相手とタイミングに合わせて変化球投げたりストレートで最初からゴリゴリに押していったりとか。

 

◇ああ、そういうことか。

 

◆先輩は彼女さんに対しては素直すぎるんだと思うんすよ、常にど真ん中にストレート投げる感じで。

 

◇確かになそれ、ちょっと納得したかも、それで ?

 

◆そういう、何の日かわかる ? なんて彼女が聞くときは十中八九、二人の記念日のことなんで、記念日だろって言っとけばいいんですよ日にちなんて答えなくても向こうが勝手に答え言ってくれますから、なーんだうちらの付き合って三ヶ月記念日だって覚えてたんだーって感じで。

 

◇なるほどな、向こうが、どストレートな答えを待ってるからこそ、こっちはストライクからボールになるスライダーでも投げて外してやればいいんだな、ストレート投げたフリして。

 

◆そうですそうです、向こうは外されたことに気づかないでストレート待ちで、お望みのどストレートがきたって勘違いしますから。

 

◇今まで自分の彼女には仕事と同様に正々堂々と真っ向勝負でいかないとダメみたいに思ってたわ、なんてか、それがおれの良さだと思ってた部分あったから。

 

◆確かにそれでもいいんですよ間違いとか正解なんて言ってしまえば恋愛にないですからね、その真っ直ぐなところが先輩の良いところでもあるし、ただそうすると彼女さんと、しなくていい衝突してお互い傷ついちゃうなんて、かなり無駄っていうかお互い損じゃないですか。

 

◇まあなあ、悪く言うとズルいって言うんだろうけど、良く言えば相手を思ってるからこそ、とも言えるしな。

 

◆先輩から彼女さんとの話を聞かせてもらって思ったんすけど。

 

◇おう、なに。

 

◆先輩くらいのイケメンなら、すごい彼女さんに失礼なこと言いますけど。

 

◇いいよいいよ全然言って、なに。

 

◆その先輩くらいのイケメンなら、付き合いたてだからまだ今から見えてくる部分も多いだろうし、おれの戯言だと思って聞いてください。

 

◇だからいいって、言っていいよバツっと言って。

 

◆んじゃバツっと言います、今の彼女さんみたいな感じじゃなくて、先輩に従う、従ってくれる人の方が合うんじゃないかと、先輩くらいのルックスなら全然可能かと、こっちから選び放題とまでは言わないですけど。

 

◇あのさ、正直言うと、そこまで本気じゃないってか、うーん、本気じゃないんだよね、そもそも。

 

◆そうなんすか、ちょっとビックリしました、先輩って性格と同じで毎回恋する相手には本気なのかとばっかり思ってました。

 

◇いやあ、おれそんな良い奴じゃないよ、本当は不器用で変化球投げられないからストレートで押してるだけでさ。

 

◆とりあえず付き合ってる感じなんすか今の彼女さんとは。

 

◇意外とおれ寂しがりやだからさ一人になるのが怖いから、途切れなく相手作ってる感じよ、ぶっちゃけ本気の恋したことないのかもな、今のおれはまだ。

 

◆なるほど、でもそれ、おれもわかりますよ、おれも今までの相手そんな感じです。

 

◇今、お前彼女いないんだよな ? 

 

◆ですね、すげえ気になってる人はいますけど。

 

◇そなんだ、そかそか、あ、そだ、次お前とこうやって飲むとき、彼女連れてきてお前に紹介するよ。

 

◆あああ、なんか、いいです、遠慮しときます、二人の時間過ごした方がいいですよ、おれを交えて三人で飲むより。

 

◇さてはお前、色々彼女のこと言ったもんだから会うの気まづいんだな。

 

◆それは違うっす、ちょっと言うの恥ずかしいっすけど、ぶっちゃけ言うと、嫉妬しちゃいそうで。

 

◇嫉妬 ? ああ、おれにか、お前、前におれに言ってたもんな、おれなんて一度別れたら恋人いない期間長くなっちゃうのに、先輩は途切れなく今まで彼女いるなんて羨ましいみたいなこと。

 

◆言いましたね、んー、それが全ての理由じゃないんですけとね本当は、あっでもいいです、まあ、そんな感じなんです、それはそうと、そこまで本気じゃない人と付き合ったってことは、何か、こう、こいつだなって感じたところがあるからそうなったんですよね ? 

 

◇それ聞いちゃう ?  聞いちゃうか ?  聞きたいか ?

 

◆先輩、もったいぶらないで教えてくださいよ。

 

◇オッケーオッケー、それがな、いいか、言うぞ、言ってていいんだな。

 

◆早く教えてくださいよ。

 

◇名器なんだよ。

 

◆名器 ?  というと彼女さんのアソコが名器ってことですか、そこで選んだと ?

 

◇そう。

 

◆どんな具合に名器なんですか ?

 

◇そりゃもう、指が押し出されるほどの名器よ。

 

◆しまる、ってことですか ?

 

◇ああー、そんなありきたりで使い古された、吸い付くような、と同じような比喩じゃ全然物足らないほどの名器よ。

 

◆先輩なりの表現で例えてくださいよ、どれほど名器なのか。

 

◇うーんとそうだなー、ハチミツが指かチンコだとして、容器の中の空気を完全に抜いてペッタンコにしたスポイトの口から、ものすごい勢いで一気に、容量以上に吸い上げたんじゃないかって感じるほど入っていって、それで、吸い上げられたときの三倍くらいに増えた容量になってスポイトからハチミツが押し戻される感じだな。

 

◆余計にわかんないっす、全くわかんないっす、先輩の説明してたテンションから目一杯汲み取って察して始めて、それでもようやく、ギリですよギリで、すげえ気持ちいいんだろうなってことが感じ取れたくらいのものです、わざわざ変に例えなくても指が押し出されるほどの名器ってのが一番わかりやすいですよ。

 

◇名器っぷりを、この上なくお互いの性器をハチミツとスポイトに例えて表現したつもりなんだけどな、伝わらなくて残念だよ。ん ? どうかしたか急に俯いて黙っちゃって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆先輩、もう、彼女とかって誤魔化すのやめにしませんか、先輩に彼女できたんすね、とおれから彼女、なんて言葉を故意に使って嫌味臭く先輩に聞いておいて、様子見ながらこんな話の流れに持っていくのはフェアなやり方じゃないですけど、でも様子見なら先輩も自分にしてましたし、その彼女とのハチミツとスポイトの話をして、おれの気持ちを揺さぶってましたよね ?  嫉妬しろ、もっと嫉妬しろと言わんばかりに。

 

 

 

 

 

 

 

◇本当にいいのか ?  

 

◆おれは覚悟できてます。

 

◇ずっと報われないままだぞ、お前の恋は。

 

◆それはハナから先輩の嘘に気づいてますんで、今の恋人と本気じゃないって大嘘に。

 

◇そっか、そうだったんだ。

 

◆はい、全部知ってました、まあまあ前から知ってました。

 

◇なにきっかけでよ ?

 

◆向こうのfacebookを見て知ったのがきっかけですけど、おれと先輩がチームで仕事してるの向こうは知ってると思いますよ先輩に言わないだけで、言ったら先輩の足枷になって仕事しにくくなると思って気を使ってるんだと思いますよ、そういう奴ですからあいつは。

 

◇え ?

 

 

 

 

◆おれヤスタカと付き合ってたんですよ。先輩とチームになるちょっと前まで、おれは先輩の二番目で十分です。

 

◇んじゃあお前全部知ってましたって、本当に全部の全部を知ってたってことか。

 

◆そうです、あいつが指が押し出されるほどの名器だってことも全部、あいつが名器だから先輩があいつと別れられないんじゃない愛してるからだってことも、ちゃんとおれは理解してるので、だからおれは先輩の二番目でいいんです十分なんです。

 

◇ちょっと驚いて言葉が出ないわ、お前とヤスタカと3Pしたいなってこと以外。

 

◆なんすかそれ。

 

◇ごめんごめん。

 

◆先輩。

 

◇お、なんだ ? 冗談だってまじまじ、半分本気で言ったけど。

 

◆愛してます。

 

 

 

 

終わり。